小さいおうち 雑感(注意 ネタバレあり)

2014.1.25~  山田洋次

以下にネタバレ多数あり
佳作であると思う。
様々な意味で丁寧によく作り込まれた映画であった。
妻夫木聡演じる大学生が、大伯母であるタキ(倍賞千恵子)に自叙伝を書くように
勧め、それが大学ノート数冊に鉛筆で描かれていく。
戦前のある「小さいおうち」で起こる小さな恋愛の秘密。
それが60年の時を経て、明かされるという
いってみればそれだけだが、そこにはそれ以上に深く重いテーマがあると思う。

丁寧だというのは、昭和初年度の生活様式がよく描かれていること。
妻夫木演じる大学生・荒井健史が大伯母の自叙伝に「美化しちゃだめだよ」という場面がある。
大伯母は「美化なんてしてない、自分のこともべっぴんではないと書いた」という意のことをいうと
「そういう意味じゃなくて」と健史は笑う。健史が言うのは「その年には二二六事件があったからもっと
世相は暗かったはずだ」とか「この時代にトンカツなんて食べられる店も人もいなかったはずだ」という
現代の歴史観から見た昭和への憶測を述べるシーンだ。しかし、回想の中で、タキ達が暮らす世界は
必ずしも暗く、また貧しいだけではない。それを見ると、日本中は○○だったはずだ、と思いこむのは
間違いだと気づく。
しかしだ。その自叙伝には実は健史が言ったのとは違う意味かもしれないが「美化」した部分がある。
というか真実が描かれていない部分があるのだ。
それは例えば、松たか子演じる時子から託された吉岡秀隆演じる板倉に宛てた手紙をタキが渡してなかったという
出来事だったりする。しかしそれ以上に、ラストシーンで金沢に住んでいた時子の子ども・恭一(米倉斉加年)が
タキと板倉と3人でよく江ノ島の海に遊びにいったといった話をする場面などは、大きな意味を持つ。
なぜならタキの自叙伝にはそのことが出てこないからだ。
つまり、タキと板倉の関係はたぶん、意図的に描かれていないのである。

映画は、どこにもお涙頂戴敵なシーンはなく、制作者が「ここで泣かせよう」などという
あざといことを企んでいる風ではない(本当はどうかは知らないが)。
しかし、自然に涙が流れてしまうような映画である。

良いシーンや良い台詞が多く、それが淡々と描かれているので、これ見よがしではないのだが
見終わったあとの余韻が長く続く。
そういう意味で佳作だと言ったわけである。
傑作である、といってもいいのだが、そういうと
この映画がもつ雰囲気が傷つくように感じるのであえて佳作といいたい。
そんな映画である。

役者はおしなべてみないいし、いい人ばかりが出てくる。
松たか子もいいが、黒木華がとてもいい。NODAMAPのオーディション出身なので
演劇ファンとしても是非スクリーンでの活躍を期待したい。
倍賞千恵子の台詞にいいのがある。それを聞くだけでも見た甲斐がありそう。

戦前の風俗は小さいおうちの中で十分分かる。
一部特殊撮影もあったが、決してコンピューターで昭和10年代の街をあからさまに再現したりはしていない。
当時の写真を短くつなぐだけである。これはとても好感が持てる。
(吉岡も出た「ALWAYS 3丁目の夕日」シリーズや今上映中の「永遠のゼロ」などと趣を異にするのはこの点
であろう。)

そして何より思うのは、この映画が昨今の世相に対してもの申している部分だ。
それは、あからさまではないが、見終わるとそう思う。そこはかとなくそう思う。
その加減がちょうどいい。その意味では、優れた映画だと、私個人は思う。

ぜひ多くの人に勧めたい一本である。
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