くちびるに歌を  雑感

2015 日本 /監督 三木孝浩/原作 中田永一/脚本 持地佑季子・登米裕一/撮影 中山光一

先週の「幕が上がる」に続いて今日も部活映画。
ただし、テイストはだいぶ違う。
「幕が上がる」が演劇部の話であるとするならば
「くちびるに歌を」は合唱部を通して「生きる」とは何かを描いた話である。

「幕が上がる」は直球勝負的で、単純だが分かりやすい野太い話、
「くちびるに歌を」は映画の様々な技法を使って重層的に描かれた話、と
表現することができると思う。

「幕が上がる」が、イジメなどの暗部を描かなくても充分リアルな高校演劇を描ける、
という(きわめて平田オリザ的な)リアリティに貫かれていたのに比べると
「くちびるに歌を」は、中学生という弱い存在が、どれだけの悲しさや辛さを抱え、
自己肯定感を持てないでいるかを、美しい五島列島の自然をバックに
絵で見せようとする、きわめて映画らしい映画だ。
したがって絵は美しいし、伏線も丁寧に張られている。ドラマの展開も飽きさせない。
きわめて王道的なというか、鉄則を大切にした映画である。

もう、始まった瞬間から「泣くかも」という予感がひしひしと伝わる映画なのだ。
そして、その期待は決して裏切られない。つまりたくさん泣ける場面がある。

アンジェラ・アキが若松島の中学生と交流したドキュメンタリーから
中田永一の原作が生まれ、今回の映画化となった。
そもそも、「手紙」という合唱曲の歌詞がドラマである。

「幕が上がる」は宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」が劇中劇として
重要な役割を果たしているが
「手紙」は、最初からそれだけで一つの重い物語であるし
それをベースに置く、本編はやはりそれなりの重さを持つ。
それを若い役者たちが生き生きと演じているところが素晴らしい訳だが
ある意味では「幕が上がる」とは逆のベクトルとも言える。

その重さを、映画という媒体の中で培われた手法で
きちんと描いているのはすごいと思う。後半、やや強引な
伏線解説と思える場面もあるが、しかし、役者の表情や、
自然の美しさなどがカバーしていく。鏡の多いリハーサル室での撮影など
結構難しいと思う(いろんなものが映り込むので)が、
そういうこともサラリとやる巧みさを持っている。

役者で目をひいたのは桑原サトル役の下田翔太。非常にいい。
恒松祐里、葵わかなもいいが、柴田杏花と山口まゆのさりげない存在感がいい。
これは監督の腕だろう。

音楽を主題にした映画も「マエストロ!」など、このところ続いたが
音楽とは…は語らず、「生」…生まれてきたことへの無条件な全肯定…
を描こうとする意味で音楽がやや道具立てになっている感があるのは
気になる。が、佳作だと思う。泣きたいという人にはオススメ。
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